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地方からの若い女性の流出

【女性の「働く場」の創出と伝統的価値観の見直しが急務】
近年、地方出身の10代後半から20代前半の女性が、進学や就職で地元を離れると、同年代の男性と比べて地元に戻ってこないことが、人口減に苦しむ地方で問題となっています。なぜ若い女性は、地元に戻らないのでしょう。その背景には、女性の望む仕事が地方にはないことと、地方に根強く残る「ジェンダーギャップ」という問題がありました。

【女性流出の現状―やりたい仕事がない】
まずは、15歳から24歳までの女性が流入している都府県を確認しておきましょう。北から見ていくと、宮城県・千葉県・埼玉県・東京都・神奈川県・愛知県・京都府・大阪府・福岡県に、若い女性が集まってきています。
一方で、流出元となっている道県のうち、男性に比べて女性の流出率が高い道県を、流出率の高さに基づいて見てみると、1位が栃木県、以下富山県・北海道・群馬県・山梨県・滋賀県・福島県・三重県・福井県・大分県となっています。首都圏や中京圏・近畿圏に近い地域、そして北陸地方からの女性の流出が目立つといえるでしょう。栃木県では、同世代の男性の2.5倍もの女性が、首都圏に流出していると見られています。
全体的な傾向として、主として東北・関東の若い女性が首都圏に集中して流入している一方、西日本の若い女性は、近畿圏をはじめとした西日本の主要都市に流出していると考えられます。
若い女性が首都圏をはじめ都市部に集中的に流入する最も大きな理由は、「やりたい仕事が地方にないから」となっています。地元の学校を卒業しても就職により希望の職種に就けたら、結果として地元を離れて都市部で働くようになり、一度都市部で働き出した女性が地元に戻る傾向はとても低くなっています。

【男性の結婚難と少子化】
同世代の男性が地元に残って働いていても、同世代の女性が流出しているため、結婚につながるような男女の出会いの機会が地方では減っています。結婚して子どもをもうけることが一般的であると考える人が多い日本社会では、結婚しない限り子どもは生まれず、したがって地方の少子化はますます加速してしまいます。
ただし、男性も女性も流入している首都圏や大都市では、出会いの場も多く、結婚数は多くなっていますが、都市部で子どもを育てるには、多くのお金がかかるうえ、保育所の待機児童問題などもあって、都市部で結婚しても、必ずしも多くの子どもが生まれているわけではないことにも注意が必要です。
とくに男性が結婚することが難しくなっている地域は、群馬県・栃木県・茨城県といった北関東の各県です。これらの県には多くの製造業の工場が立地し、若い男性の多くが地元に残って働いています。北関東に限らず、地方では女性の賃金は男性よりも低く、パートなどの非正規雇用も多くなっています。地方の事務職の女性では、たとえ正社員であっても給料の手取りが10万円程度といった事例も多くあるのです。

【地方に残る「ジェンダーギャップ」】
では、なぜ若い女性が地方を離れるのでしょうか。その背景には、先にもふれたように、女性が好む職業(とくにサービス業)が地方には少ないということもありますが、最も大きい原因は、地方に根強く残るジェンダーギャップに、若い女性が背を向けはじめているということがあります。
ジェンダーとは、身体的・生物学的な性別ではなく、「社会的・文化的に形成された性別」を指し、社会のなかで男性も女性も、それぞれふさわしいと考えられる振る舞いを行っていることを意味しています。
また、ジェンダーギャップとは、男女の違いから生じるさまざまな格差を指しており、このジェンダーギャップ指数が低いほど、男女間の不平等がひろがっているとされています。ジェンダーギャップ指数は、教育・経済・政治・健康といった各指標から算定されていますが、日本は146ヶ国のうち125位と、先進国のなかで最低水準にあり、近隣諸国である中国や韓国よりも低い順位となっています。

【求められるのは価値観の見直し】
とくに地方では、「男性を立て、女性は一歩引く」という伝統的な価値観はなお根強く残っており、男性は仕事/ 女性は家事・育児を行うべきという発想や、たとえ共働きであっても家事・育児の負担をすべて女性が負うことも少なくありません。また、明治時代に制定された旧民法の影響で、長男が家を継ぐべきという「家」意識が根強い地域では、女性は結婚すると「家」の「嫁」としての役割を担うのが当然とされてきましたが、これに対する祖父母世代と親世代、そして若い世代の間の感じ方は変わってきており、そのような価値観に違和感をもつ女性も増えています。
「男性を立てる」という環境になじめず、さらに自分自身の持つ可能性を試したい若い女性が、窮屈な思いをしてまで地元にとどまりたいとは思わないでしょう。逆に、そのような伝統的な価値観や地域独自の慣習になじんでいる女性は、地元を離れることを望みません。
それでも、少しずつ変化も生じてきているようです。3世代同居率が高い北陸地方は、祖父母が孫を育てて、子ども夫婦が共働きで稼ぐことで、生まれる子どもの人数も多く、女性の就業率も高いという、少子化克服のモデルケースであるとされてきました。ただし、近年では、3世代同居に違和感を抱く女性の都市部への流出が目立っています。

1.内閣府「婦人に関する世論調査」(昭和54年)、「男女平等に関する世論調査」(平成4年)、「男女共同参画社会に関する世論調査」(平成14年、24年、28年)及び「女性の活躍推進に関する世論調査」(平成26年)より作成。
2.平成26年以前の調査は20歳以上の者が対象。28年の調査は、18歳以上の者が対象。

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