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ジェンダーギャップの大きい日本

【なぜ日本のジェンダーギャップ指数はこんなに低いのか】
ジェンダーという言葉を知っていますか。
たとえば「料理は女性が作るもの」って思い込んでいる人はいませんか。でも料理を作るのが好きで、得意な男性もたくさんいるのにおかしいと思いませんか。男性・女性という生物学的な性別に対し、根拠のない固定観念により社会の中で決めつけられる性別をジェンダー(社会的性差)といいます。ジェンダー間の格差(ジェンダーギャップ)をなくそうという考え方は今、世界中で叫ばれています。
このほど男女格差の現状を数字で表した「ジェンダーギャップ指数」の各国の順位が発表されましたが、日本は調査対象146カ国中116位でした。順位の低さは男女格差の大きさととらえることができます。なぜ日本はこのように低いのでしょうか。

【男女参画の度合いを数値化したジェンダーギャップ指数】
ジェンダーギャップ指数は、スイスのシンクタンクである世界経済フォーラムが毎年発表しているものです。政治・経済・教育・健康の4分野で、男女参画などの度合いを評価して数値化しています。完全に実現できている場合を1、まったくできていない場合を0として、数字が高いほど平等に近づいているとされています。
日本の指数は、教育分野では1.000で1位、健康分野では0.973で63位ですが、政治分野では0.061で139位、経済分野では0.564で121位。トータルでは0.650で116位。日本はアメリカやEU諸国主要7カ国の中でも、東アジア太平洋地域19カ国の中でも最下位となっています。

【参院選では多くの女性議員が誕生したが…】
日本の評価が低い分野について見ていきましょう。政治分野では女性の議員数、閣僚数の数が圧倒的に少なく、女性の首相も誕生していないことから評価を下げました。
2022年7月の参議院選挙で女性議員は日本の憲政史上最も多い35人が当選しました。この結果、参議院の女性議員は64人となり、参議院の女性議員の割合は25.8%となりましたが、衆議院の女性議員の割合が9.7%であることから国会議員の中の女性議員の割合は15.4%となり、諸外国に比べて少ない数値です。ちなみに世界で最も女性議員の割合が多い国はアフリカのルワンダで61.3%。先進国ではフランス39.5%、イギリス31.2%、アメリカ27.7%などとなっています。
このように国会議員をはじめ、ビジネスや文化・スポーツの世界でも意思決定の場に女性が少ないのが日本の現実です。こうした状態のままではジェンダー平等の理念の実現がなかなか進まない恐れがあります。

【女性が育児・家事に携わる時間は男性の5.5倍】
経済分野では、管理職に就く女性の少なさや、男女の所得に差があることなどが順位を下げた原因でした。日本の家庭内での育児や家事は、女性に負担が集中しているとされ、家庭の中での労働格差が特に大きいと指摘されています。働く女性が対外的な仕事をセーブして家庭内の仕事に従事しているのが現状です。
2016年の総務省による調査では、6歳未満の子どもを持つ夫・妻の育児に関する1日あたりの平均時間は、夫の49分に対して妻は3時間45分。家事に関する1日あたりの平均時間は、夫の34分に対して妻は3時間49分。日本の女性が育児・家事に携わる時間は男性の約5.5倍になるという統計があります。日本の男性が家事・育児に携わる時間は先進国で一番短いのです(グラフ1参照)。
育児休業取得率について、近年男性の取得率は確実に伸びており2020年は12.65%という結果となりましたが、ノルウェー90%、スウェーデン80%、ドイツ34%と比較すると物足りなさを覚えざるをえません(グラフ2参照)。

【誰もが活躍できる社会を実現するには】
ジェンダー平等である社会にするためにはどうしたらいいのでしょうか。
ひとつは、社会全体で仕事と生活の調和(ワークライフバランス)を推し進めることです。内閣府では、ワークライフバランスが実現される社会の姿を「多様な働き方・生き方が選択できる社会」と定義しています。求められているのは、性差や年齢によってではなく、働く意欲や能力によってさまざまな生き方が選択できる社会であり、育児や介護に従事する期間には柔軟な働き方と公正な処遇が確保されている社会です。企業は、育児休業や短時間勤務選択の設定、再就職就業の機会など、個人の状況に応じた働き方の整備や利用しやすい社風づくりを構築することが求められます。私たちは家族や地域の人々に対して、多様性への理解を深め、協力しあうことが不可欠です。

【男女の賃金格差の解消も課題】
女性の雇用・賃金格差の解消も課題です。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2021年、フルタイムで働いた場合の賃金の平均月額は男性33.7万円、女性25.3万円。女性の賃金は男性に比べて75.2%の数値となっています。日本は、女性の賃金が男性の65%だった2001年からは改善が見られるとはいえ、8割以上である欧米と比べると差が目立ちます(グラフ3参照)。
男女共同参画社会基本法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などとともに、ジェンダー平等を実現するために整備された法律に女性活躍推進法があります。職場において女性の採用や昇進機会を積極的に提供し、仕事と家庭を両立させるための環境の整備をめざす同法が改正され、7月からは従業員101人以上の企業にも男女の賃金格差を公表することが義務づけられました。公表することで賃金格差がすぐに解消されるわけではありませんが、女性活躍に関する状況の把握と課題分析を進めることで、企業や個人が女性活躍の場を広げる行動を起こすきっかけになるよう期待されています。
「ジェンダーギャップ指数の中で経済の数値が低いのは、管理職や医師、弁護士など高収入の専門職に女性が少ないことが要因のひとつと考えられます。また結婚や出産・育児によって退職するなど女性の勤続年数が少ないことも要因です」と識者は指摘します。結婚や出産を機に退職したのち、育児が一段落して再就職しようとしても、以前と同様の条件での雇用とならないケースも多くあり、出産・育児と仕事を両立させるのが難しいと復帰をあきらめる女性も少なくありません。近年、日本は育児・家事に関して男性も協力的な社会になってきたとはいえ、残念ながらいまだに結婚や出産は女性のキャリアアップを阻むひとつの要因とみなされる場合もあります。こうした状況を乗り越えるためには家族・地域・企業・国など、社会全体で協力することが必要です。

【意識改革、ハラスメントや暴力に対する取り組みを積極的に】
ジェンダー平等という言葉は以前に比べて知られるようになり、社会の意識も高まりつつあるといえるでしょう。しかし、女性に対する差別撤廃、ジェンダー平等活動への支援を行う国連女性機関(UN Women)の石川雅恵・日本事務所長は「日本では、特にハラスメントや暴力に関してまだまだ積極的に取り組めていない。いまだに女性がハラスメントを受けた時に、女性にも責任があると非難される風潮がある。ハラスメントは絶対ダメなんだという社会の意思を確かなものにする必要があります」とコメントしています。
ジェンダー平等は、国連が掲げるSDGsの目標のひとつでもあります。もちろん女性だけではなく、男性も深く関わりのある問題です。「男は外で働き、女は家を守る」「一家の大黒柱は男性」などという時代錯誤的な固定観念を変えていく必要があります。そしてその上で、女性は男性に比べ、肉体的・精神的・性的・経済的により多くのハラスメントや暴力を有形無形に受けているという事実があることを忘れてはなりません。
ジェンダーギャップ指数は、そうした複雑多岐にわたるジェンダーに関する課題を象徴的に表したものと言えるでしょう。指数の発表結果を興味本位でとらえるのではなく、ジェンダー平等実現への道を拓くひとつのきっかけとして、男性も女性も意欲に応じてあらゆる分野で活躍できる社会を作っていくことが、私たちはじめ現代を生きる全ての人々の課題です。

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