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岐路に立つ中国の「一帯一路」構想

【今後、一帯一路はどこに向かうのか?】
昨年10月17日から2日間、中国の首都北京で「第3回『一帯一路』国際協力サミットフォーラム」が開催されました。一帯一路構想は、中国の習近平国家主席が2013年に初めて打ち出した構想で、アジアからヨーロッパ、アフリカ大陸を陸路と海上航路でつなぐ物流ルートを作って貿易を活発化させ、経済発展につなげようというものです。この10年の間に、中国から発展途上国や新興国への経済進出が進む一方、中国の過剰な投融資が途上国に返済不可能な債務を負わせているなど様々な批判が高まっています。この10年の歩みを振り返ってみましょう。

【シルクロードをイメージした一帯一路構想】
一帯一路構想とは、古代の中国とヨーロッパを結んだ交易路で、中国特産の絹を運んだ絹の道(シルクロード)になぞらえた陸と海のシルクロードで、この二つが合わさって一帯一路構想となっています。「一帯」とは中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパへと続く「シルクロード経済ベルト」を指し、「一路」は中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島沿岸部、アフリカ東岸へと続く「21世紀海上シルクロード」を指しています。
一帯一路構想がめざすのは、陸路(一帯)と海路(一路)で結ばれた、中東諸国からアフリカ大陸、さらにヨーロッパにかけて鉄道や高速道路、港湾施設などの物流システムの構築、パイプラインの敷設などのインフラを整備し、これらの国々の経済発展に寄与するという経済戦略です。

【一帯一路構想の背景に何があった】
習近平主席が一帯一路構想を打ち出した背景を考えてみましょう。当時、中国では2008年の北京オリンピック開催に向けて国内のインフラ整備に力を注ぎ、全国各地で建設ラッシュの時期を迎え、まさに中国版バブルの最中にありました。
一方、日本をはじめ欧米諸国は、同年9月に起こったアメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発した「リーマンショック」で、多くの国々はマイナス成長に陥り、世界同時不況が起こっていたのです。そうした中、中国だけが莫大な資金を投入して、遅れている国内の高速道路や鉄道、通信設備、住宅などさまざまなインフラ整備を急ピッチで進めました。リーマンショックによる世界経済の低迷は、中国の経済成長によって食い止められたといわれるほど、中国の経済的発展は驚異的なものでした。
しかし、中国の急激なインフラ整備も一定のレベルに達すると国内の需要が下がり始め、鉄鋼やセメントなどの資材が余るようになりました。このため、国内で過剰生産された資材を途上国などに輸出して投資額の回収を図りたい中国と、遅れているインフラ整備を中国の支援で進めたいという途上国の国内事情が一致し始めます。この時期が、丁度一帯一路構想が発表された2013年頃のことです。
一帯一路共同構築に参加する国は、アジア、アフリカ、ヨーロッパといった沿線国以外のラテンアメリカ、南太平洋地域にも拡大していきました。

一帯一路国際フォーラムでの習近平主席

【「債務の罠」とはどんな罠】
しかし近年、一帯一路に対する批判が表面化してきました。途上国への「債務の罠」と呼ばれるもので、その代表的なものがスリランカへの融資です。スリランカは中国から巨額の融資を受けて大規模な港を建設したものの返済に行き詰まり、中国に港の運営権を99年にわたって譲渡することになりました。債務の罠とは、この事例にみられるように、中国側が採算の見込めない巨大プロジェクトに融資し、その結果、途上国側は過剰な債務を抱えたまま身動きできなくなることです。債務の罠に陥っているのは、他にもモンゴル、ラオス、パキスタンなど8カ国に及んでいると見られています。
債務の罠が表面化するに従って、中国からの支援によるインフラ投資に慎重になる国が増えています。2019年にG7で唯一参加国になったイタリアも「想定したほどメリットがない」という理由で昨年12月に離脱を表明しました。
習近平主席はこうした批判を受け、2019年の一帯一路フォーラムで「国際ルールに基づきながら、各国の法律を尊重しつつ財政上の持続可能な支援を行う」と、国際社会への配慮を表明しました。軌道修正を迫られた中国は、その後一連のコロナ禍の影響もあって経済成長は勢いを失い、デジタルや環境分野など現実的な資金計画に基づく小規模な事業に力を注ぐ方針を打ち出しています。

【今後一帯一路はどこに行くのか】
当初、中国の一帯一路構想はアジア、中東、アフリカなど、アメリカと真正面から対立する地域を避ける形で構想されました。しかし、インド洋進出のための港湾整備を進める「シーレーン戦略」、「デジタルシルクロード」と呼ばれる一帯一路周辺地域でのオンラインネットワークの構築などは欧米諸国に大きな脅威になっています。一帯一路構想を「新植民地主義」とする見方もあり、今後の推移を注意深く見守る必要があります。
日本は「第三国市場協力」という形で、個別の案件ごとに協力を検討するというスタンスを取っています。2018年10月、日本と中国は新興国など第三国の利益になるよう、双方の企業や政府機関が協力して多くのプロジェクトを進める文書を交わしました。現在進行中のタイのインドシナ半島を東西に跨ぐ経済回廊プログラムでの日中協力は、一帯一路構想と日本企業のメリットを示すプロジェクトといえます。日本企業が世界を舞台に経済活動を行うには、中国が主張する「一帯一路はアジアの発展に不可欠であり、アジア諸国の経済格差を是正し、世界の発展にも有効である」との発言を絶えず検証しながら慎重に進めることが必要です。

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