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気候変動と食料危機

【気候変動の影響による地球上のさまざまな異常気象
2022年夏、世界は記録的な猛暑に見舞われました。国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、地球の平均気温が今後2℃以上上昇すると、農地の砂漠化や、干ばつや洪水の増加により食料生産が脅かされると警告しています。気候変動が日本の食料生産に及ぼしている影響を調べてみました。

【2022年夏の豪雨と被害】
記録的な梅雨明けの早さとなった2022年6月、気象庁は線状降水帯の発生予報をはじめました。雨を降らせる積乱雲が次々に発生して線上に並び、同じ地域で数時間にわたって集中豪雨をもたらす線状降水帯の存在は1990年代半ばから指摘されていましたが、ひろく一般に知られるようになったのは、2014年8月の広島での土砂災害により70人以上の死者を出してからのことです。
線状降水帯が東北・北陸地方で相次いで発生した2022年の夏は、農業に多大な被害を及ぼしました。東北地方各県の食料自給率は日本のなかでもとくに高いため、東北地方での農業への被害は、日本の食料生産に直接的な影響を及ぼします。今回の線状降水帯による被害では、日本のリンゴ生産量の6割を占める青森県で、収穫を目前に控えたリンゴが水に浸かってしまい、出荷できない事態となりました。
梅雨明け以降長く続いた猛暑のなか、例年に比べて蚊が少ないと感じる人も多かったようです。実際には、あまりの高温に昼間の蚊の活動が鈍くなっているだけで、蚊の絶対数が減少しているわけではありません。蚊が活発に活動する気温は25度〜30度程度とされるため、蚊の活動期は夏から秋にずれ込みつつあり、場所によっては11月はじめまで蚊に悩まされる日が続きそうです。

【農業への影響】
2022年夏だけでも農業にこれだけの影響を及ぼした気候変動は、農業にさまざまな影響を引き起こしています。たとえば、日本の主食である米の生産について見てみると、高温年が問題となりはじめた1990年代以降、収穫量の減少がしばしば起きています。米の見た目や味についても、米の細胞にデンプンが詰まらず、米のすき間が光を反射して白く見える白未熟米の発生や、米が割れる胴割れ米の発生が問題となっています。白未熟米は、稲の穂が出てから20日間程度の平均気温が27度を超えると発生率が上がるとされており、このまま高温が続くと、2040年代には現在の2倍の発生率となることが予測されています。胴割れ米の発生も、稲の穂が出てから10日以内の異常な高温が原因とされており、高温に強い品種の開発も急がれています。
果実にも深刻な影響が出ています。そのひとつが、リンゴやぶどう、みかんの日焼け被害です。直射日光により、果実が褐色に日焼けして見た目が変わることから、出荷できなくなったり、価格が下がってしまったりして、生産農家に経済的打撃を与えてしまうのです。日焼け被害を減らすため、果実に袋をかけたりする対策も取られていますが、日焼けしても味は変わらないため、見た目のきれいさを望む消費者の意識変化も望まれています。
このまま高温が続くと、近い将来には果実の栽培に適する地域が変化すると考えられています。実際に、これまでみかんの主要生産地のひとつであった愛媛県の南予地域では、みかんの栽培をやめて、イタリア原産の高温に強いブラッドオレンジの生産をはじめる農家も増えています。年平均気温が6度〜14度の地域が栽培に適するとされてきたリンゴの栽培地域も北上しており、2050年には、これまでリンゴを栽培してきた関東地方の内陸部や本州の日本海側では、リンゴの栽培ができなくなると予測されています。

【漁業への影響】
2021年、秋の味覚として知られるサンマの不漁がニュースとなったように、地球温暖化による海水温の上昇は、漁業にも深刻な影響を及ぼしています。サンマの価格は、2006年から2010年の平均では1キロあたり82円となっていましたが、2015年から2020年の平均では、約3.6倍の300円近くにまで上がっています。その原因が15度から20度の水温を好むサンマの生息域の変化です。これまでは北海道や東北の近海に回遊してきていたサンマは、日本近海の海水温上昇を嫌って、より沖合の北太平洋を移動するようになったのです。これまでサンマが回遊していた日本近海には、高い水温を好むサバやイワシが増えていると指摘されています。
サケの記録的な不良も、海水温の上昇によります。10度程度の海水温を好むサケの生息域が北上しているからです。2011年以降、かつてサケの漁場であった北海道沿岸では、16度程度の海水温を好むブリの漁獲量が増えています。
九州沿岸では、海水温の上昇により増加したウニが海藻を食べ尽くす磯焼けの拡大により、イセエビやアワビなどの資源減少が報告されています。東シナ海や日本近海の黒潮では、過去80年の間に漁業資源が15〜35%減少していると指摘されており、この傾向は続くと予測されています。

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