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景気を左右する日本銀行の役割

【日本銀行が果たす3つの役割とは?】
今年4月、日本銀行の新総裁に植田和夫氏が就任したことが大きく報道されました。しかし、日本銀行の仕事内容や日本経済にどのような役割を果たしているかとなると、首を傾げる人も多いかと思います。日本銀行設立の背景や、これまでに果たしてきた役割などについて考えてみました。

【1882(明治15)年に日本銀行が誕生】
明治維新以降、日本は積極的な殖産振興事業を推進してきました。しかし、まだ財政的な基盤が整っていない明治政府は、資金調達を不換紙幣(*)の発行に依存しなければなりませんでした。こうした中、1877年に西南戦争が勃発し、多額の戦費を賄うために大量の不換政府紙幣、不換国立銀行紙幣を発行したことから激しいインフレが起こりました。
1881(明治14)年、大蔵卿(現在の財務大臣)に就任した松方正義は、インフレ克服のためにデフレ政策を取り、欧州各国の中央銀行をモデルに正貨兌換の銀行券を発行する中央銀行の設立を提案しました。中央銀行とは、銀行券の発行など国の金融制度の中心となる銀行のことです。1882年6月に日本銀行条例が制定され、同年10月に業務を開始しました。

*兌換紙幣と不換紙幣
兌換(だかん)紙幣とは、正貨(金や銀などの本位通貨)と交換してくれることが保障されている紙幣。
反対に不換紙幣は、正貨と取り換えができない紙幣のことです。

【日本銀行の概要】
日本銀行はわが国唯一の中央銀行であり、国のものでも民間のものでもなく、日本銀行法に基づいて設立された認可法人です。認可法人とは、設立に際して主務大臣、日本銀行の場合は財務大臣の認可によってできる法人です。このため、日本銀行は政府と密接な関係がありながら、金融政策などが政府の意思でコントロールされないように国から独立した組織となっています。
日本銀行で働く人たちは、認可法人のため職員と呼ばれますが、国のお金を扱うという重要な業務を行うために高いモラルを求められます。このため、日本銀行法で「公務に従事する職員とみなす」と書かれています。つまり、日銀で働く人たちは「みなし公務員」なのです。 
今回、政府は日本銀行の新総裁に植田和夫氏を任命しました。日本銀行は国の金融政策を担う重要な機関であるため、トップの人事には国が関与します。しかし、国民の意見を反映させるため、衆議院と参議院の同意を得ないと総裁に就任することはできません。

【政策委員会が最高意思決定機関】
日本銀行の役割は、大きく分けて3つあります。
①日本銀行券(紙幣)の発行
②政府の銀行
③銀行の銀行
という役割を果たしています。
これらの重要な役割を、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会で決めています。政策委員会は、総裁、副総裁(2人)、審議委員(6人)の計9名で構成され、通貨及び金融の調節に関する方針を決定するほか、その他の業務の執行の基本方針を定めるとともに、監事(3人以内)、理事(6人以内)、参与(若干名)などの役員の職務の執行を監督する権限も持っています。

日本銀行政策委員会の風景

【日本銀行の3つの役割とは】
日本銀行の3つの役割について見ていきましょう。手元にあるお札を見てください。紙幣の表に「日本銀行券」と印刷されています。つまり、日本銀行は、我が国唯一の「発券銀行」として、紙幣の発行、流通、管理を行っています。紙幣は国立印刷局で製造され、それを日本銀行が引き取り、日本銀行の窓口から金融機関を通じて送り出されます。また、政府が発行する硬貨(貨幣)の取り扱いもします。
「政府の銀行」と呼ばれるのは、日本銀行が政府の資金を管理する役割を担っているためです。私たちが納める税金や社会保険料などの歳入金の受入れ、公共事業費や公的年金などの歳出金の支払いなど国庫金の管理を行っています。さらに、国債の発行や国際元利金の支払いなど国債に関する事務や、外国為替市場における事務作業も政府から委託されています。
最後に、「銀行の銀行」という役割があります。日本銀行に口座を開設できるのは、銀行など民間の金融機関だけで個人では開設できません。銀行は日本銀行の口座を通じて、預金や借り入れを行っています。また、日銀ネットを使って民間金融機関相互の資金決済も行われています。私たちが自分の口座から他の銀行の口座にお金を振り込む場合、使用している銀行が日銀に持つ当座預金から、相手先銀行の預金口座にお金を移しているのです。この方法が一番早くて確実な方法なのです。

【国民生活の健全な発展を目指して】
日本銀行は通貨や金融の調節、銀行間の円滑な資金決算などの業務を行うにあたり、その理念として「物価の安定を図ることで国民経済の健全な発展に資する」を掲げています。
しかし近年、日本経済は長引く景気の悪化に悩まされ、さらに昨年から続くロシアのウクライナ侵攻で物価の急上昇など不安定要素が増しています。厳しい経済状況下にある日本経済に対し、新体制となった日本銀行が政府と一体になって今後どのように対応するのか注意深く見守っていきましょう。