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農業人口の減少と日本の食の未来

【フードロスを減らすことから始めましょう】
2050年までに、日本国内で農業に携わる人の数は今より8割減少し、米をはじめとする農業生産物が激減するという推測があります。さらに、小麦などの穀物、農業用の肥料や畜産用の飼料をはじめ、多くの食料や原材料を輸入に頼る日本は、国際関係の悪化により輸入ができなくなり食べることに困る日が来るかも知れません。日本の農業の現状と将来の展望を調べてみました。

【農業人口の減少】
2020年の農家数は約107万戸ありましたが、2050年には約17万戸にまで激減すると推測されています。その理由は、高齢化と後継者不足にあり、とくに小規模な農家ほど減少数が大きいと見られています。
農家とひとくくりにされがちですが、米を生産する農家、野菜を生産する農家、果実を生産する農家のほか、畜産も農家に含まれており、それぞれ仕事の内容も技術も異なります。現状では、約107万戸の農家のうち、稲作農家59万7000戸(55.5%)、畑作農家6万2000戸(5.6%)、野菜農家18万1800戸(16.9%)、果樹類農家14万2000戸(13.2%)、畜産などその他9万3600戸(8.7%)の内訳となっています。
このうち減少数が著しいのが、1965年には488万戸もあった稲作農家です。パン食の普及などで米の供給が過剰となったため、政府が1971年から稲の作付面積を減らす減反政策を実施したこともあって、急速に稲作農家数が減少していきました。

【稲作農家と野菜・果樹農家の違い】
稲作はトラクターやコンバインなど農機具の機械化が進み、今では1ヘクタール規模の田んぼなら、年間27日の労働で収穫が可能となっています。さらに規模を拡大すれば、より大型の機械で耕作できるため収穫量も増えていきます。
一方で、野菜・果樹農家ではなかなか機械化が進みません。野菜の種類によって機械が異なるために機械価格も高く、複数の作物を栽培する農家で機械を導入することは現実的ではありません。そのため、せん定や収穫、出荷などを行うためには多くの人手が必要となり、近年では外国人技能実習生に頼る農家も多くなりました。
野菜農家数も、急速に減少しています。2020年の調査では27万戸あった野菜農家は、先に見たように18万1800戸にまで減っています。果樹農家数も同じように急減しており、米以上に野菜や果物の生産は先細りしているといえます。

【国産農作物はなくなる?輸入も減る?】
農林水産省の統計のように農家数の減少が進むと、2030年にサクランボが、2049年にほうれん草がそれぞれ収穫ゼロとなり、2050年には米は6割、大根は5割、カボチャは4割、レタスも4割、それぞれ収穫量が減少すると推測されています。
また、日本は、アメリカ・中国・カナダ・タイ・オーストラリアなどから多くの農作物を輸入していますが、エネルギー価格の高騰による輸入コストの増加、またこれらの国で災害などが起きると、まず自国民の食料を確保することが優先されるでしょう。そうなると、カロリーベースで62%の食料を海外からの輸入に頼っている日本は、食糧不足に陥ることになるかもしれません。
2023年8月に農林水産省が公表した試算によると、日本人は1人あたり1日2168キロカロリーの摂取が必要とされています。そして、そのすべてを国内で生産された食料(肥料・飼料も含む)でまかなうとすると、図のメニュー例のように、1日3食に必ずイモ類を食べなければなりません。米だけでは足りない炭水化物をイモ類で補給し、少量の野菜や果物、タンパク質を摂取して暮らすほかないのです。農林水産省もこのメニューは「あくまでも極端な仮定」であるとしていますが、実際のところ、肥料のほとんどを輸入に頼っている野菜や果物、そして牛や豚、鶏の飼料のほとんどを輸入に頼っている畜産関係の食品を食べることは難しくなります。

資料:農林水産省作成
注:27年度の食料自給率目標が達成された場合における農地面積(450万ha)、農業技術水準等のもとで、熱量効率を最大化した場合の国内農業生産による供給可能量に基づくメニュー例

【農業経営の大規模化や省力化】
どうすれば、国産の農作物を増やして日本の食料供給を安定させることができるのでしょうか。まず考えられるのは、農家を大規模化し、より機械化を進めて生産量を増やすことです。実際に、日本での農産物の販売金額のうち、法人化した大規模な経営体によるものは77.8%を占めています。そのような大規模な経営体は、農家数の12%弱に過ぎません。小規模な経営体や、家族で耕作しているような小さな農家が後継者難や経営危機に陥ると、近隣の大規模な経営体に吸収されることもあります。
また、賃金が上がらない日本に働きに来てくれる外国人労働者の数は、今後増えることはないでしょう。高齢化した農家の後継者不足も解消できそうにありません。そのため、AIなどを利用した作業の自動化や省力化、さらには野菜や果樹などを栽培する大規模工場を作って大量生産を実現するなどの方法が考えられています。

【フードロスはありませんか?】
日本では、年間3163万トンの食品を国外から輸入しています。これほどまでに輸入食料に頼っている日本で廃棄される食品の量は、年間523万トンに及んでいます。1人あたりに換算すると、茶碗約1杯分の食料が毎日捨てられているのです。国際情勢が不安定な現在、食料についての安全保障のあり方を考えることは、輸入に依存してきた日本にとって大変重要な問題です。
まずは、購入した食品を食べきる、食べられない量は注文しないといった、私たちにできる簡単な努力からフードロスを減らし、今後の安定した食料供給の方法を考えていかなければならないのではないでしょうか。

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