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AIは社会をどう変える?

【「考える機械」の歴史と生成AIの今】
ECサイトのおすすめ機能から地図アプリの経路検索まで、私たちの生活のさまざまな場面で活用されているAI(人工知能)。人間の良きパートナーとなることが期待される一方、昨今の生成AIブームではフェイク画像の悪用や著作権の問題などさまざまな課題も指摘されています。先人たちはAIにどんな夢を託してきたのでしょうか。そして、私たちはAIとどのように付き合っていけばいいのでしょうか。

進化し続けるAIの歴史
【AIという概念の誕生】

AIはArtificial Intelligenceの略語で、日本語では人工知能と訳されます。はっきりとした定義があるわけではありませんが、一般的には「人間がもつ物事を認識する能力や考える能力を人工的に再現したもの」と言うことができるでしょう。AIという概念の誕生は1950年に遡ります。コンピュータ科学の父として知られるアラン・チューリングは、「機械は考えることができるか?」という問いを立て、それを確かめる方法として「チューリングテスト」を提唱しました。これは、審査員がディスプレイ越しにコンピュータや人間と対話をし、コンピュータのことを「相手は人間だ」と判断すれば(つまりコンピュータが審査員を騙すことができれば)そのコンピュータは人間と同等の知能を持っているとみなせる、というものです。チューリングテストに合格するAIを作ることは、現在に至るまでAI開発の大きな目標の一つとなっています。
チューリングの着想を受けて、アメリカの計算機科学者ジョン・マッカーシーは「人間の脳に近い機能を持ったコンピュータプログラム」をAIと名付けます。1956年のことでした。

AIの概念を提唱したアラン・チューリング

【第1次AIブーム】
1960年代から70年代中頃にかけて、アメリカ、イギリスを中心に第1次AIブームが起こります。当時開発されたのは、簡単なパズルやゲームをこなすことができるプログラムでした。特筆すべきは、1966年にジョセフ・ワイゼンバウムが開発した「ELIZA(イライザ)」です。ELIZAは人間を相手に簡単な会話をこなすことができました。仕組みは単純で、予め質問とそれに対する答えをインプットしておき、あたかも自然に会話しているように見せかけたのです。人間と自然に会話できるAIというアイデアは、後にSiriをはじめとするAIアシスタントへとつながっていきます。
「考える機械」への第一歩を踏み出した第一次ブームでしたが、当時のプログラムはあらかじめルールの決まっている問題を解くことはできても、さまざまな要素が複雑に絡まり合った現実の問題は解くことができないという限界が見えてきたことで、次第に鎮静化していきました。

【第2次AIブーム】
二度目のブームが訪れたのは1980年代でした。この時に注目されたのは、特定分野の知識を予め大量に入力しておき、それをもとにコンピュータが推論して答えを出す「エキスパートシステム」です。このシステムは、ECサイトの評価システムなど現在に至るまでさまざまな分野に活用されています。
エキスパートシステムの大きな弱点は、元となる大量のデータを人間が手動で入力しなければならないことでした。チューリングテストに対応できるような幅広い知識を人力で教え込むことには限界があり、特定の分野に特化した活用に止まらざるをえませんでした。

【第3次AIブーム】
こうした試行錯誤を経て、2000年代から現在まで続く第3次AIブームがやってきます。AIの可能性を飛躍的に広げたのはいくつかの技術革新でした。
一つ目の技術革新は、ビッグデータを用いた機械学習です。インターネットや電子端末の普及によって、私たちの社会では大量のデータが記録・蓄積されるようになりました。このビッグデータを学習元として、プログラム自身がアルゴリズムを自動的に構築することができるようになりました。
二つ目の技術革新は、ニューラルネットワークとディープラーニングです。ニューラルネットワークとは、人間の脳の神経回路を数学のモデルに落とし込んだアルゴリズムです。それを多層に重ねて、さらに精度の高い処理を可能にしたのがディープラーニングです。
こうした技術によって、膨大なデータを短時間で学習し、対象のもつ複雑な特徴を識別し、非常に高精度な応答ができるという現代のAIの性能が確立されました。その結果、社会のさまざまな場面でAIの活用が進むとともに、チューリングテストに合格するAIや、囲碁の対戦で世界トップの棋士に勝利するAIも登場しています。

「生成AI」が社会に与える影響
【AIが絵や文章を創作する】

進化を続けるAIの最先端が「生成AI」です。生成AI(ジェネレーティブAI)とは、簡単な命令を与えるだけで写真と見紛うような画像を出力したり、質問に対して自然な文章で回答してくれたりと、さまざまなコンテンツを生み出すプログラムのこと。AI自身がクリエイティブな創作物を生成できる点で、これまでのAIとは一線を画す存在です。
生成AIブームの火付け役となったのは2022年7月に公開された「Midjourney(ミッドジャーニー)」です。このプログラムは、単語や文章を打ち込むだけで美しい写真やイラストのような画像を生成できる画像生成AIで、その精度の高さと独創性で大きな注目を集めました。そして同年11月には、アメリカのOpenAI社から「ChatGPT」が公開されます。質問を打ち込むと自然な応答を返してくれるテキスト生成AIですが、個人でも使える手軽さと汎用性の高さから爆発的にユーザー数を伸ばしました。この他、音声や動画を生成するAIが次々と登場しています。

文章を生成して質問に答えてくれるチャットAI

【利用には注意が必要】
短期間のうちに一気に身近な存在となった生成AIですが、得意・不得意をよく見極め、節度をもって利用することが大切です。
たとえばChatGPTの場合、質問をすれば一見してそれらしい回答が返ってきますが、プログラムがその内容を理解しているわけではないため、虚偽の情報が含まれることが多々あります。また、著作権にも注意が必要です。たとえば画像生成AIの場合、あるイラストレーターのイラストを集中的に学習させることで、そっくりな絵柄のイラストを生成することもできてしまいますが、こうした行為は著作権侵害とみなされる場合があります。
そのほかどんな注意が必要なのかは、AIサービスを利用する際によく確かめるようにしましょう。学校などでAIを使う場合にも、利用方法についてのガイドラインが設けられるようになってきています。

画像生成AIで生成したさまざまな「少年と犬」の画像

【生成AIが社会にもたらす功罪】
生成AIを巡って大きな問題となっているのが、あたかも現実のように捏造された写真や動画や音声、いわゆるディープフェイクの存在です。ロシアのウクライナ侵攻を巡っては、ゼレンスキー大統領が国民に投降を呼びかける偽動画がSNSで拡散されたことが物議を醸しました。AIは使い方次第で戦争の道具にもなりうるのです。
クリエイティブ業界で働く人々の仕事が生成AIに代替されてしまうのではないか、という懸念も現実味が増してきました。今年5月にはハリウッドの俳優組合や全米脚本家組合がストライキを敢行し、ドラマや映画制作に大きな影響が出ています。このストライキで俳優・脚本家側は、AIが俳優の代わりに作品に出演したり、脚本を書いたりすることを危惧し、業界としてのルールづくりを求めています。

【AIは人間を超える?】
専門家の中では、数年から数十年以内にAIが人間の知能を上回る「シンギュラリティ(技術的特異点)」が訪れるという見方も出ています。シンギュラリティに到達すれば、多くの生産活動がAIに代替され、人類の生活はより豊かになるという見方がある一方で、人間がAIを制御できなくなるのではないか、と懸念する声も聞かれます。映画のようにAIが人間を支配する世界はまだまだありえなさそうですが、AIが社会に与えるプラスの面とマイナスの面、両方を認識して、ときに立ち止まりながら上手に活用していくことが大切になりそうです。

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